仕事のできる人は、なぜか携帯を二台、あるいは番号を二つ持っているらしい。
私もつられて、番号を二つ作った。
ただ、使わないほうの番号は、ほどなく通信会社に回収された。
やがて WeChat のアカウントを二つ持つのが流行り、私もなんとなく、二つ登録した。
よく使うほうは、友だちは多いけれど、ほとんど連絡を取らない。
もう片方は、友だち欄に自分だけ。
眠れない夜、布団の中で身を丸め、画面の青い光をたよりに、使わないほうの番号に切り替える。
自分を哀れむような、わけのわからない気持ちをいくつか、タイムラインに流す。流したあとは、黙って何度も読み返す。誰に気兼ねすることもなく。
眠りにつく前、しょぼしょぼする目をこすって、よく使うほうの番号に戻す。
さっき自分が流した投稿に「いいね」を押し、ついでに、歯の浮くようなコメントをひとつ。
ときには、書いては消し、消しては書く。
夜の自分が、昼の自分を慰めている。
翌朝目が覚めれば、何もかも、いつものまま。
ふと、『花様年華』を思い出す。
昔の人は、誰にも言えない秘密を、木の幹に穴を掘り、そっと囁いて、泥で塞いだという。
そうすれば秘密は、もう誰にも届かない。