ゆうべの雨が、空気のなかに芽生えかけていたわずかなざわめきを、すっかり洗い流してしまった。
昼どき、そっと家を抜け出す。
あたりはひっそりと静まり返り、梢の隙間からやわらかな陽射しがこぼれてくる。
そっと目を閉じ、両腕を広げる。風が頬をやさしく撫でていった。
森には、木漏れ日と影がまだらに揺れている。
小道の脇では、ブルーベリーの葉が陽の光を受けてかすかに光っている。
その下では、柔らかな草が静かに揺れ、こぼれ落ちてくる光を受け止めようとしているようだった。
薄く積もった松葉が湿った地面に貼りつき、踏むたびに、ふかふかとした感触が返ってくる。
ふと顔を上げると、淡い青空に、大きな雲がいくつも低く浮かんでいた。
村上春樹は『走ることについて語るときに僕の語ること』のなかで、こう書いている。
走っているときに頭に浮かぶ考えは、空の雲に似ている。いろんな形の、いろんな大きさの雲。それらはやってきて、過ぎ去っていく。でも空はあくまで空のままだ。
脚が急にむず痒くなり、ぱしりと叩く。
蚊が一匹。